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ワンポイントアドバイス

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18歳で大人?心配です
 どうやら、今年の通常国会で民法の成年年齢を18歳に引き下げる法案が提出されるようです。それと共に、結婚可能年齢を18歳に統一する法案も想定されているようです。
 さて、そうすると「高校3年生で結婚し、卒業式がお祝い会となる」なんてことも珍しくなくなるでしょう。平成25年6月に18歳で選挙権を与える法改正が済んでいますから、「一人前として扱おう」という原則がはっきりすることにはなるわけです。少年法はまた別に議論がありますので「刑務所行も平等に18歳から」ということに直ちになるわけではありません。そこで、少し考えてみたいのです。私の結論は、現状では反対、仮に法改正する場合は、少なくとも5年間くらいの猶予期間をおけ、というものです。

 まず、普通は高校3年生で18歳になります。そこを忘れるべきではありません。
もちろん18歳で働いている場合も多いでしょう。でも、現在の主流はやはり大多数は高校3年生だとかんがえるべきでしょう。
 ところで、現在は民法第5条で、20歳未満の場合、両親の同意がない限り契約を「未成年であることだけで」取り消せることになっています。法改正で、18歳・19歳についてはこの縛りが無くなることになります。つまり、18歳になると自分ですべて独自に契約することができるのです。もう取り消しはできないので、「すべて自己責任」ということになります。
 そこで、具体的にイメージしてみてください。あまりよいイメージにはならないのではないでしょうか。「借金も自由にできるしカードも自分で作れる」「退学ももちろん自由」アルバイトどころか「風俗店で働くのもまったく自由」「ブラック企業で酷使されても自己責任で文句をつけにくい」「住むところも自分で契約できるのでどこでもOK」などなどです。

 「いや自由といっても本人が思うほどには社会は相手にしてくれないよ」という反論はしごくまっとうな考えですが、まっとうでない反社会的な勢力は大歓迎して、おおいに取り込もうとするでしょう。上手におだてたりしてカードなどで多額の借金を背負わせることなどは大きなビジネスチャンスとなるでしょう。現在でも、20歳を超えたら、途端に怪しい勧誘が増える傾向は指摘されています。
 ネズミ講などの被害も確実に増えると私は考えています。そう考える原因は、「友人からの勧誘」が多くなるであろうことが容易に予測できるからです。これまででも、ネズミ講的な事件の拡大は一定の人脈利用でした。職場の人脈・同窓会の人脈などの利用は当然多いのですが、背後に「各種名簿を購入し利用することによる勧誘」が見え隠れしています。これらが恐ろしいのは「人間関係の破壊と人間不信」を引き起こすことです。18歳になった途端に「同年配の友人関係を」利用して、それこそ見かけはよさそうで実は詐欺的な勧誘が行われるでしょう。18歳の頃は、「友達」という関係を特に大切に思う時期です(私の独断でしょうか?)。友達の友達ということで気軽に付き合いが始まりやすい年齢でもあります。気軽なその場の乗りで書類にサインすることなどは充分に予想できますし、その結果の借金と、生活破壊という悲惨さはほぼ確実に想定できます。

 「きちんと断わる」ことが出来るようになるには、一定の社会経験や人格的な成熟が必要です。高校3年では一般的にはまず無理としたものでしょう。大規模でしかも深刻な社会的被害の発生がかなりの確率で予想できます。「きちんと断わる」ための訓練や教育を早急に行うことは、20歳が成年の現在でも、本当に緊急の社会的課題です。まして18歳成年となると取り消しによる救済ができないわけですから、更に大きな問題になるでしょう。是非多くの方が「反対」してください」。それと共に、「怖さを理解してきちんと断わる」教育、消費者教育と呼んでいますが、この教育が現在は極めて不十分なのです。教育する側の人も含めて、質量ともに充実させなくてはなりません。その重要さを強く訴えます。私が最初「5年間の猶予」といったのはまさにこの消費者教育を徹底するための、最小限の期間と考えるからです。

平成29年2月 弁護士 小林政秀
離婚調停の流れや期間等について
第1 はじめに
 離婚調停では、弁護士を立てないで本人が一人で出席することも多いです。離婚調停が初めての人は(そのような人がほとんどだと思いますが)、離婚調停に不安を抱くことがあると思いますので、どのように手続きが進められるのかなど、相談者からよく質問されることを中心に離婚調停について簡単に説明させていただこうと思います。
 なお、離婚調停という場合、夫婦関係調整調停(離婚)のことを指しますが、婚姻費用分担調停や面会交流調停も同時に申し立てる(もしくは申し立てられる)ことが多く、手続も大部分共通していますので、ここで説明します(特に断りがない限り、離婚調停と婚姻費用分担調停・面会交流調停の説明は同じと考えてください)。

第2 離婚調停の際の服装・子どもの同伴について

 相談者から調停にはスーツで出席した方がいいですかと聞かれることもありますが、清潔感のある恰好であれば普段着で出席して構いません。ただ、あまりに派手な恰好などは調停委員の中には良くない印象を持たれる方もいるかもしれませんので、避けた方がよいでしょう。

 また、相談者からお子さんを連れて行ってもいいのかということを聞かれることもあります。まだ幼くて学校等に行っておらず、また預かってくれる人もいないような場合には、お子さん同伴でも構いません。

第3 離婚調停期日の流れについて

 離婚調停では、調停委員(男女1名ずつ)が間に入って交互に当事者から話を聞きながら手続きを進めていくことになります。裁判官(もしくは家事調停官)もいますが、調停の場にはほとんど顔を出すことはありません。

 第1回の調停期日では、調停委員の自己紹介から始まり、離婚調停について簡単な説明があります。なお、最初の離婚調停の説明の際に相手方との同席を求められるますが、相手方と顔を合わせられない事情(例えば、DV等)がありましたら、それを説明をして断ることが可能です。

 調停の時間は1回の期日で2〜3時間程度です。おおむね30分ずつ双方から交互に話をすることになります。調停委員も公平さに疑いをもたれないよう、同じ程度の時間で話を聞くようにしているようです。ただ、一方の当事者が饒舌な場合などには、その当事者の時間が極端に長くなることも場合によってあります。私が経験した調停では、2時間20分の調停時間のうち、こちらは合計40分程度しか話をしませんでしたが、相手方は1時間40分ぐらい話をしていたということがあります。相手方が話をしている間は、こちらは待合室でずっと待っているわけです。本などを持参して待ち時間に読んでいる当事者もいます。

 また、調停委員によっては相手方との同席での調停(同席調停)を強く進めてくることがあります。ただ、相手方がいる席では自分の言い分がきちんと話せないこともありますので、断ってかまいません。

第4 離婚調停の期間について
 その日の期日が終わっても結論が出なかった場合には、次回期日を入れることになります。離婚調停はおおむね1か月に1回のペースで期日が入ります。
 最短では1回の期日で終了することもありますが、通常は5回程度は期日が開かれることが多いです。ときには10回以上期日が開かれることもあります。
 期日は裁判所が勝手に決めるのですかと相談者から質問を受けることもありますが、次回期日を入れる際には当事者の予定を聞いてくれるのであまり心配をする必要はありません。ただし、期日は平日の日中しか入れられませんので、仕事をしている方などは休みを取るなどする必要があるでしょう。

第5 離婚調停の終了について

 調停での話合いの結果、双方が合意に至った場合には、調停条項を定めて、調停成立として終了となります。ただ、調停で離婚が成立した場合には、別途調停成立から10日以内に離婚が成立したことを役所に届ける必要がありますので、ご注意ください(なお、離婚日は、役所に届け出た日ではなく、調停成立日となります)。 

 成立しない場合にはいくつかのパターンがあります。
  (1)
 まず、申立ての理由がなくなって取り下げる場合が考えられます。たとえば、離婚を望んでいたが、話合いの結果、離婚をしないでもう一度夫婦としてやり直すことになった場合などが考えられます。
  (2)
 また、調停不成立の場合には、離婚調停の場合と婚姻費用分担調停・面会交流調停の場合とで異なります。
 まず、離婚調停では、調停不成立として手続は終了します。この場合には離婚は成立していないので、どうしても離婚をしたい場合には、改めて離婚訴訟を申し立てる必要があります。
 婚姻費用分担調停や面会交流調停の場合に調停が成立しなかったときには、審判手続に自動的に移行します。あらためて審判を申し立てる必要はありません。審判では双方が提出した資料等に基づいて、裁判官が判断することになります。
  (3)
 調停が成立しない場合には、「調停に代わる審判」というものがされることもあります。「調停に代わる審判」とは、簡単に言えば、審判の形で解決案を提示するものです。解決案の提示なので、相手方はこれに不服があれば異議を申し立てることができます。異議申立てがなければ、確定します。異議申立てがあれば、調停に代わる審判は効力を失い、改めて審判をやり直したり、訴訟を提起する必要がありますが、離婚することについては当事者間で合意ができているが、わずかな部分(例えば、相手方に引き渡す金額の僅かな相違など)で合意に至っていない場合などに、利用されています。
  (4)
  調停をするのに適当でないと裁判所が判断したときには、「なさず」という方法もあります。あまりない扱いですので、ここでの詳しい説明は省きますが、まれに調停委員がこの方法を提案してくる場合がありますので、一言触れておきます。

第6 相手方が期日に出席してこない場合

  
 最初の期日には、相手方が既に仕事等が入っていて欠席することがあります。その場合には、初回の期日には申立人のみが出席し、調停委員と話をすることになるのが通常です。そのうえで、次回期日について欠席した相手方の要望も聞き、期日を入れることになります。

 これに対して、相手方が出席を拒否して出てこないということもあります。そのような場合には、書記官から出席するよう働きかけてもらいます。それでも出てこない場合には、基本的に不成立となりますが、上記第5で説明した「調停に代わる審判」が出されることもあります。

第7 最後に
 離婚調停では、弁護士に依頼しても基本的に本人も出席する必要があります。そのため、弁護士に依頼しない方も多いと思います。基本的には中立的な第三者である調停委員が間に入って手続きを進めますので公平な解決が期待されますが、調停の進め方(例えば、主張すべきことを主張していなかったなど)によっては不利な内容の調停条項に同意してしまう可能性もあります。そのため、調停を申し立てる際、もしくは調停を申し立てられた場合には、早い段階で一度弁護士に相談されることをお勧めします。

以 上
  平成29年1月  関戸康之
個人情報保護法が改正されました
 平成27年に個人情報保護法が改正され、すべての事業者に個人情報保護法が適用されることになりました。これまでは、保有する個人情報が5000人以下の企業の場合、個人情報保護法が適用除外とされていましたが、今回の改正により、適用除外がなくなったためです(旧政令の削除)。
 改正された個人情報保護法の全面施行日は平成29年5月30日です。
 今後は、当事務所も含め、中小企業、小規模事業者の方にも個人情報保護法が適用されます。
 個人情報は、利用目的をできる限り特定しなければならず、また、その目的達成に必要な範囲を超えて利用することはできません。これが大原則です。
 では、どういった点が改正されたのでしょうか。下記では、簡単に改正法の内容を追っていきます。

 
〔大きな改正点は?〕

 「個人情報」の定義が明確化されました。
 改正法では、「個人情報」に、氏名・生年月日等のほか「個人識別符号が含まれるもの」(法2条1項2号)が追加されました。「個人識別符号」の例としては、指紋認証データや顔認識データ、旅券番号や運転免許証番号等が挙げられます。



「要配慮個人情報」の規定が新設されました(法2条3項)。
 「要配慮個人情報」とは、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」です。
 「要配慮個人情報」の例としては、心身の機能の障害があること(身体障害や知的障害など)、健康診断等の結果、刑事事件に関する手続等が行われたこと等が挙げられます。
 要配慮個人情報を取得する場合は、原則として本人の事前の同意が必要です(法17条2項)し、これに違反した場合、本人は、利用停止を請求することができます(法30条1項)。
 また、要配慮個人情報を含む個人データは、第三者に提供することができません(法23条2項)。


 第三者への個人データ提供に関する規制が強化されました。
 ベネッセ事件を受けての改正です。
 現行法では、本人の求めに応じて提供を停止するとしている場合(これをオプトアウトといいます)であって、第三者への提供を利用目的とすること等一定の事項について、あらかじめ、本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置かれているときは、本人の事前の同意がなくても個人データを第三者へ提供することができますが、改正法では、その一定の事項について、個人情報保護委員会への届け出が義務づけられることになりました(法23条2項)。
 外国にある第三者に個人データを提供する場合は、原則として、外国にある第三者への提供を認める旨の本人の事前の同意が必要です(法24条)。
 また、第三者へ個人データを提供した場合、原則として、提供した年月日や氏名等に関する記録を作成しなければならず、かつ、その記録は一定期間保存しなければなりません(法25条)。



 匿名加工情報に関する規定が整備されました。
 数年前、JR東日本がSuicaデータを社外へ提供したため騒動となったのは記憶に新しいところですが、このようなビッグデータを利活用するため、改正法では規定が整備されました。
 「匿名加工情報」とは、一定の措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたもののことです(法2条9項。例えばレストランで「20代、男性」が「○月○日○時」に「○○を注文した」など)。
 この匿名加工情報を作成する場合は、特定個人の識別や復元ができないよう、当該個人情報を加工しなければならず(法36条1項)、匿名加工情報の安全管理のための措置を講じなければならない(法36条2項)等、諸々の規定が定められました。
   
   弁護士 油木 香
マイナンバーの申告拒否をどこまで貫けるか!?
 平成28年1月に「マイナンバーの申告を拒否するとどうなるの?」というタイトルでワンポイントアドバイスの記事を書きました。
 そこでは、法律上申告義務はあるけれど、罰則はないし、拒否しても実際上は問題ないはずだという趣旨のコメントを書きました。
 実は、私自身、まだマイナンバーの通知カードを受け取っていません。当初はそこまで強固にマイナンバーに抵抗するつもりはなかったのですが、世帯主が受領拒否してしまったので、わざわざ取りに行くのも抵抗があり、いっそのこと、どこまでマイナンバーなしで頑張れるか、やってみようと実践中です(笑)。
 この一年間、弁護士会を始め、様々な機関からマイナンバーの提供を求められましたが、「通知カードを受け取っていないし、マイナンバー制度に反対の気持ちもあるので、できれば申告せずに済ませたいのです」と伝えたところ、「その旨記録することになりますが、それでよければ申告なしのまま処理します」と言われ、今のところ、申告せずに済んでいます。
 申告しなくても、マイナンバーを必要とする行政機関等はしかるべき手段で私のマイナンバーを調べて活用できるので、特に問題は生じていないようです。それなのに、わざわざ民間で様々な書面にマイナンバーを記載しなければならない仕組みになっているのは何故なんでしょうか。マイナンバーが記載された書面を取得すれば、特定個人情報として厳格な管理が求められるので、へたに取得しないに限ると思うのですが。。。
 
 などなど、個人的に色々と疑問もあるため、ささやかな抵抗を続けております。
 マイナンバーを申告しないとどうなるのか、具体的にどういう不都合が生じるのか、今後も私自身の体験をお伝えしていきたいと思います。

以 上
  平成28年11月  弁護士 酒井桃子
相続法改正の動き(遺産分割で配偶者のより厚い保護へ)
 現在,相続法の改正の動きが始まっています。まだ,法律が成立している訳ではありませんが,世の中の動きとして興味深いのでお知らせしましょう。
 
 遺産分割で配偶者の保護をより厚くする方向へ
 こうした動きは,高齢化社会の進展により,相続人の年齢が従前より高齢化している中で,子供はすでに独立していることが多く,一方で残された配偶者の生活保障をどう図っていくかという問題意識から検討され始めました。その裏には,長年連れ添った配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するという意味も含まれています。
 現在の法律の規定は,配偶者と子供がいる場合は1/2ずつ。子供がおらず,配偶者と亡き夫の親がいる場合は配偶者が2/3,親が1/3。子供がおらず,配偶者と亡き夫の兄妹がいる場合は配偶者が3/4,兄妹が1/4となっています。現在でも配偶者の相続分は配慮されていますが,改正の動きは,例えば,配偶者と子供がいる場合の1/2ずつの権利についても,配偶者の相続分をもっと認めて有利にしたいということのようです。
 そこで検討されている案は大きく二つ。一つは,婚姻後一定の期間(20年または30年)が経過した後に,夫婦双方が,もしくは一方が他方の配偶者の法定相続分を引き上げる選択をすることができる,というものです。この場合は,例えば,一方の配偶者は残される配偶者に財産の全部を相続させるということが可能となり,現在認められている他の相続人の遺留分の権利を考慮しなくてもいいことになります。
 この考えに対しては,本来の相続人の最低限の権利を認めた遺留分(本来の相続分のさらに1/2の権利で,子供であれば1/4の権利。なお,相続人が直系尊属だけであれば1/3の権利)の変更を伴うことになりますが,それでもいいのかという問題があります。子供はすでに独立しているという前提に立っていますが,他方で,貧困化や格差の問題も今日指摘されているとおりです。複数の子供がいる場合でも,全ての子供が独り立ちして生活しているという状況ではないという現実もあります。また,高齢による意思表示の無効や誘導・欺罔による取消しなどの紛争を招くのではないかという心配も出されています。相続分の権利が変更可能ということになれば,いろいろ損得の感情が入り込み,家族の中でトラブルが発生しやすいという負の面もあるかもしれません。また,夫婦双方が,もしくは一方が他方の配偶者の法定相続分を引き上げる選択をする方法も問題となります。公正証書のような公の方法ではない仕方で決めることを認めるのかどうか,その場合の届出や公示方法はどうするのか,夫婦だけの間で勝手に決めてしまっていいのかという問題です。
 確かに,すべての子供が独立し,その生活の面倒を見る必要がない場合,配偶者の相続分を厚くする方法を認めてもいいように思えます。ただ,現在の法律でも,例えば,遺言や相続分の指定の方法で,配偶者を優遇する方法はあります。また,本来の相続人の最低限の権利を認めた遺留分の権利までも影響するような配偶者への優遇は必要かという疑問は依然として残っているように思います。
 第2案は,第1案をさらに進めて,婚姻後一定の期間(20年または30年)の経過により,法律上当然に配偶者の法定相続分を引き上げるというものです。夫婦の意思だけに任せない,意思表示の無効や誘導・欺罔による取消しなどの紛争を招かないということでは徹底しています。
 しかし,これもいろいろ問題があるようです。これでは,長期間に婚姻関係(法律婚)の継続を事実上奨励するような制度とならないでしょうか。相手が死亡するかどうかはだれも予想は出来ませんが,ともかく20年または30年間は婚姻関係を我慢しておけば,仮に相手が死亡すればより多くの相続分を手に入れることができるという訳です。また,長期の別居や・破綻などにどう対応するか。夫婦関係がすでに破綻していて長期に別居していても婚姻関係(法律婚)が続く限り相続分が増えるというのはおかしくはないかという指摘もあります。では,その場合は除外事由として適用しないようにしようとしても,それを巡って,またどちらに責任があるかなど,さらに紛争の火種にならないかという心配もあります。
 このように考えてくると,高齢化によって残された配偶者の生活保障をどう図っていくかという問題意識は分かりますが,その対応は,現行法でも認められている遺言や相続分の指定の方法で解決することが妥当のように思われますが,どうでしょうか。

以 上
  平成28年10月  弁護士 森田太三
騙されないために
 またもや、平成28年の週刊新潮9月22日号で、大規模な投資詐欺の記事が出ました。先物取引をネタにしたようです。名の知れた芸能人もやられているようなので、話題性はあるでしょう。溜息と共に「詐欺の類型としてこんなのがあるよ、このあたりを注意してください」という情報をささやかながら発信します。

 まず注意してもらいたいのが、勧誘をする人の、名前・住所・名刺・勤務先を素直に信用しないで下さい。これらすべてが架空のものであるケースが、最近特に目立ちます。携帯電話についても借り物であるケースは普通のことです。お金が絡む場合は、運転免許証くらいは確認して下さい。あるいは、勤務先が実在しているかどうか(大きなビル内であっても単にレンタルオフィスでしかも電話だけがあり転送されることが多いのです)、実在だとしてもまともな会社かどうか(ビルの小部屋を賃借してそこを勤務先とするケースが多い)、まともでもそこに本当に勤めているかどうかなどは、最低限確かめて下さい。お金をやりとりする場合は、互いにそのあたりを明らかにすることが、最低限の礼儀です。せめて、金の支払いについては、支払う前に、身近な人や、弁護士に相談すること、その意味で一息入れることを身につけて下さい。
 それと、「まとまった現金をなんらかの方法で直接送る・取りに来る」という話しは、基本詐欺と考える位でちょうどいいのです。まともな契約であれば、むしろ銀行送金が当然の話です。もっとも、送金先はまともでないとだめですよ。と言っても、まともかどうかが分からないケースが多いかもしれません。せめて、個人と会社を混同しないこと、例えば勧誘は会社の名刺なのに、送金先は個人の場合は絶対におかしいわけです。また、会社名義であっても、あまりに遠距離への送金や外国への送金などは、とてもリスキーです。

 さて第1類型は、「いい投資ですよ」という詐欺です。週間新潮の記事もこのパターンです。大体が、金利の高いことを売り物にします。上記の記事に類似したパターンの詐欺は非常に多いのですが、相手も考えてきますので、少しずつバリエーションが違います。基本的に気をつけてほしい要素は、「外国に本社がある」「外国債」「スイスのプライベートバンク」「特に、あなたが選ばれました」といった文句と、「絶対に大丈夫だ」という保証?です。

 第2類型として、「取締役あるいは社員になって下さい」「取締役になったので、ついては出資して下さい」といった詐欺が意外に多いのです。ここでご注意します。取締役になっただけでは関係ない、あるいは社員になっただけでは関係ない、金を出さなければ大丈夫と思っているあなた、危ないですよ。やばいことを押しつける、詐欺の片棒を担がせて、逮捕される要員にする、あるいは逆に社会的信用をつけるために名前を借りて、金を手にしたとたんに消えてしまいあなただけ残される。そういった話なのです。勿論出資させる手段として勧誘することも多いのです。

 第3類型として、不動産を高い値段で買わせるとか、そのために無理なローンを組ませる詐欺も当然ながら多いのです。デート商法との組み合わせもとても多いのが目につきます。男性・女性を問わず結婚をにおわせるとか、恋人の振りをするとかして上手に売買契約とローンを組ませて、契約して金を払った後や、ローンを組んだ頃に、いつのまにか恋人と思っていた人がいなくなる訳です。探しても、仮名で住所も架空であることが多いのです。勿論、対象は不動産でなくとも構いません。金を引き出せればいいわけです。

 第4類型として、意外にも「カードを使わせてしまった」という形で借金を背負わされることが後を絶ちません。友人・知人・先輩(と思っている人)などが、「ちょっと頼む」というわけですね。カードを貸してしまって、一挙に数百万円の借金を背負ったなどのケースです。皆さん自分は大丈夫と思っていますか?実際にはなかなか断れないものです。そのようなことを頼んでくる人は、そもそも友人ではありません、友人と思っているのは幻想です。ですから元々付き合うべき人ではありません。きちんと断わって下さい。
 なお、「保証人になってくれ」というのも、詐欺に近いことが多いと思って下さい。昔からある話しなのですが、信用がないから保証人が必要なのです、そこをよく考えて下さい。保証人になってしまうと、本人は、しめたとばかり多額の借り入れをして、その後にいなくなるか破産してしまい、保証した人が、借り入れについての全責任を取らされます。財産をすべて無くしてしまうことになります。

 第5類型ですが、「サクラサイト」という言葉を知っていますか。要するにインターネット上の囮利用ですね、特定の人と会話しているつもりがそうではなく単なる騙しの手段としての言葉の羅列なのです。何か物を買わせる、カード決済させるといった話しが当然ながら確実に付随してきます。このパターンは、暗証番号などをなんとか教えさせようという詐欺につながります。そのためには、子供を利用しようとすることも多くありますので注意して下さい。パスワードを表示させて、そこから細工をしてくるわけです。子供がゲームのつもりで教えてしまうことの無いよう注意が必要なのです。

 第6類型という訳ではないのですが、基本的な注意があります。それは、ローンを組む段階では、それなりに注意が必要だということです。例えば「・・・を継続して提供します」というパターンです。これは、継続的役務提供という言葉があるのですが、例えば、2年間英会話の授業を受ける約束をして、その代金はローンで「全額を最初に」払ってしまうケースです。暫くして相手とまったく連絡がつかなくなってしまう、あるいは会社を実質的に無くしてしまう、といった話は非常に多くて、このようなケースでは大規模な被害が生ずることが多いのです。慎重に調査することは当然ですし、せめてローン金額を小さく抑えることぐらいは考えて下さい。

 まだまだ、多種多様なパターンがありますが、結局「お金を簡単に払ったり、簡単に署名・押印しないこと、せめて事前に相談すること」を肝に銘じて下さい。これらのことは古くから教えられてきたことです。

以 上
  平成28年9月  小林政秀
強制執行の「改正」について
 最近、新聞に強制執行の改正関連の記事が載っています。例えば、2016年9月13日の日経新聞朝刊では「債務者口座 裁判所が特定」という見出しで、なかなか分り易く書いてあります。しかし、大多数の方々は、「わけがわからん」ということだと思います。当然です、法曹関係者でも、かなり注意深く記事を追っていかないと、どこまで有用なのか、すぐにはピンときません。
 しかし、実はけっこう身近な問題なのです。問題の焦点は、結局判決の効力をどこまで強力なものにするかということなのです。もっとも、改正といっても内容はこれからまだ変わる可能性も大きく、専門的過ぎるのでここでは省きます。
 ここでは、どのような基本的考えや利害が絡むのかを、皆さんにも興味が持てるように書いてみます。

 よく問題にされるのは「養育費の未払いはけしからん」ということです。これならかなりの人にとって、現実の悩みでしょう。また、「金・・・円を払え」という判決を貰っても、「全く回収できない、裁判に意味があるのか」「弁護士の腕が悪い」という質問・批判は弁護士にはおなじみであり、最大の悩みの種です。しかも常に古くて新しい問題提起なのです。
 それなら、「どんどん法改正して判決で回収できるようにすればいいじゃないか」ということになるでしょうか?それが、そう簡単にはいかないのです。まず、根本的な壁があります。

 それは、第1には「義務を負う人に金がなければそれまでだ」というもっとも基本的な点です。そうは言っても、請求する側はそれで終りにしたくないでしょう。「じゃあ働いて返して貰おう」となり、義務を負う人が「分割払いで返します、ですが月1万円ではどうでしょう」となって双方合意できれば、それは分割払いの約束であり、有効です。

 ここから第2の問題が生じます。「月1万なんて、ばか言うな、あそこで働け、35万の給料の中から直接に俺が30万貰う」という話になったら、払う側は断わるでしょう。ここでのポイントは「無理に働かせることはできない」ということです。債務奴隷という言葉がありますが、そのような事は、絶対に許されないのです。つまり「いや、腕ずくでもやらせる」という話はだめなのです。この点は「人身を拘束されないこと、つまり行動の自由」あるいは別の面から「自力救済の禁止」と表現されます。これらの原理は、近代国家の大原則です。この二つを外すと法治国家ではなくなります。当然ながら、ケースによっては恐喝・暴行・強要などの刑事罰の対象になります。

 第3の問題として、差押さえられる側の生活も大切です。特に家族がいると、その生活維持も大切な要請です。「そこは自業自得だ」「厳しい生活は当然のことだ」と思われますか?そう簡単には言えないのです。例えば、小学生の子供がいると仮定してみて下さい。単純に社会的コストから考えても、家族としての成り立たせることによって、その子供がきちんと成長できるのです。つまり、借りた側の生活も尊重すべきだという要請は無視できません。もう少し踏み込んで考えると、支払い義務者本人の生活が成り立ってこそ、分割にせよ支払いができるし、再起して払ってくれればそれが一番よいわけです。ですから、支払い義務者側の生活維持の要請も無視できないわけで、そのために給料の差し押さえにも限度が設定されています。 もっともこれらの事を考慮したうえで、債権者からすると「預金口座を差押えたい」という要請は当然出て来ますし、それ自体は許されるでしょう。ですが、どこに口座があるのかは、なかなか分からないものです。そこをどうするかについて、一定の方向を示したのが、最初に書いた記事なのです。
 但し、別名義で預金されていたら、いずれにせよ追求できないことでは同じです。反社会的勢力と称される人たちの不当行為を抑制するためには、そのあたりの調査手段を確保しないと意味がないことになりかねません。しかし、そのような手段はプライバシーを全く無視することになります。また、預金に対する信頼を失わせる可能性があります。金融制度の根幹を揺るがしかねないのです。つまり副作用も甚大なものになりますから、却って害になる可能性が大きいでしょう。

 このように、悩みは尽きません。今後も試行錯誤を重ねていくことになります。

以 上
  平成28年8月  小林政秀
後見制度は必要でしょうか
 最近は「成年後見」という制度はかなり身近なものになっています。平成12年4月1日から、過去の「禁治産宣告」というマイナスイメージを一新する狙いで始まりました。現在、家庭裁判所は成年後見の仕事で大忙しであり、社会的にも広く認知されていると評価できるでしょう。
 それでは制度の概略を説明しましょうということではなく、「そもそも必要でしょうか」というのが本文の内容です。何故か?それは、成年後見制度は、本人の財産管理権を奪ってしまうものだからです。わかりやすく言うと、本人が勝手にお金を使えないのです。さてそうすると、「高齢者・障害者への圧迫だ、権利侵害であり許されない。本人のお金だから奪うようなことはおかしいではないか」という疑問が当然出て来ます。
 今更、なにを言っているのか、そんなことは折り込み済みだろうと思われるでしょう。それが意外にもそう簡単ではないのです。英国発の運動のようですが、既に「障害者権利条約」というものがあり、日本は既に批准しているのです。あまり知られていないでしょうね。
 「財産管理権を奪うべきではなく、高齢者・障害者の意思を尊重すべきであり、その意思・真意を確認してそれを活かしてあげるための制度こそが必要なのだ」とする流れが世界的にあり、そこでは成年後見制度への評価は否定的なのです。スローガンは「「成年後見制度から意思決定支援制度へ」ということになりそうです。これは日本弁護士連合会・第58回人権擁護大会シンポジウムでも取り上げられています。
 確かに、成年後見制度の対象となる、知的障害・精神障害といっても様々です。一旦そのような診断が為されても、回復しないとは言い切れないかもしれませんし、ある時点では正常な判断力が存在する可能性はやはり否定しきれないでしょう。また、成年後見が悪用される恐れも勿論あります。誤解しないようにしてほしいのですが、家庭裁判所は本当に真摯に向き合っており、制度運用については、基本的に高く評価していいのです。ですが、本人保護を言うなら本人の考え・意思をきちんと確認して、その通りにしてあげれば良い、本人の財産処分は認めないという制度では駄目だ。別の工夫をしなくてはならない、との話しも充分な説得力があります。
 弁護士は、財産を持っている親の誘致合戦とでもいうべき事例を結構見てきますので、「うーんどうかな・・・」と悩むのです。しかし、逆に、一度言ったのに、少し後ではまた別のことを言い出す、しかもそれぞれが矛盾しているという場合には、最初に言ったことを前提として動いた人は、はしごを外されて非難されることがあります。高齢者の介護ではしばしばお目に掛かるパターンであり、本人の意思に振り回されるのは本当に困ることも多いのは確かです。
 私としては、中間に線引きをするしかなく、制度的には、後見についても途中での見直し・確認を丁寧に行っていくしかないのだろうと思います。しかし、精神障害という境界が本当に客観的に判断できるのか、という疑問が私の中でくすぶっているのも確かなのです。皆さんも真面目に悩む時が来るのではないでしょうか。老齢化はすべての人の宿命なのですから。
 なお、成年後見について、弁護士の不祥事が最近問題にされます。本当につらいことです。これを受けて、担当者の人選については、名簿の段階から選任まで弁護士会も関与を強めていますし、日弁連では不祥事の損害てん補について、急ピッチで制度構築を行おうとしています。様々な努力を行っていることは皆さんに報告しておきます。
 
平成28年5月
  弁護士 小林政秀
交通事故損害 物損の話し
 今回は、交通事故による物損のお話をします。被害の大きい人損に比べ物損は額もそれほど大きくなく、深刻な争いになるケースはまれですが、それでも検討してゆけば細かい問題があります。

修理代 
   車の修理代は意外と額がかさみます。バンパーにちょっとぶつけただけで20数万円を請求されたことがありますし、屋根の部分なら損傷の個所だけの塗装に限らず、屋根の脱着作業が必要ということで30数万という金額になるケースもあります。普通は、被害者側が修理工場の見積もりを出し、加害者側の保険会社(アジャスター)がそれを査定して決めますが、アジャスターは、被害車両の立会調査をして損害調査報告書を作成し、修理の範囲や額が適正かどうかを決めています。修理代とは、工賃と部品代です。
 ときどき、被害者側が損傷部分だけでなく、エンジンや車体内部の点検を求めてくる場合があります。これを認められるかどうかはケースバイケースですが、結局は、当該事故も内容によりその個所の点検が必要かどうかの判断如何によります。その立証は被害者側が負いますから認められるケースはまれですが、まったくゼロではありません。
 
修理代か時価額か
   さて、以上は修理が可能な場合ですが、修理が不能の場合はどうなるのでしょうか。この場合は、その車の時価額を賠償することになります。
 修理が不能というのは以下の場合です。
@ 物理的に不能 これは修理技術的に無理な場合です。
A 経済的に不能 これは修理は可能であるが、修理代が事故車両の時価を上回る場合です。
B 車体の本質的な構成部分に重大な損傷が生じたとき(たとえば、フレーム、エンジンの交換、車軸などの損傷)。これはむしろ全部の損壊とみなすということです。
 このようなケースでは、修理代を弁償させることは不可能あるいは相当ではないとして、その車の時価額を賠償させることになります。
 Aのケースは少し説明が必要です。修理費に100万円かかるが、車の時価額は50万円しかない場合を言いますが、たとえば、車が全部損壊した場合には50万円しか賠償されないのに、修理費に100万円かかるからと言ってそれを賠償させるのは変ですね。賠償はあくまでその物の損害の補てんですから、時価よりも大きな損害はあり得ないという考えによります。
 但し、判例で認められた例外もあります。特別な例として、被害車両と同種同等の自動車を中古市場において取得することが至難である場合、また、被害車両の所有者が高額の修理費を自己負担しても被害車両を修理し引き続き使用したいと希望することを社会観念上認めるに足る相当の理由がある場合、などです。但し、この場合も車両の時価額を超える修理代を認めると言っても、先ほどの例で100万円すべてを認めるのではないですから注意ください。
 次に、修理代が事故車両の時価を上回るという場合の「事故車両の時価額」とは何かですが、中古車両の場合は新車価格よりずっと価格が低くなりますね。普通は、「オードガイド自動車価格月報」(レッドブック)や「中古車価格ガイド」(イエローブック)等で査定されます。したがって、本当に古くなった車両では時価額がほとんどつかないケースもあり、修理すればまだ使えるのに修理代がかさみ時価額の弁償では本当に低額で納得いかない、などと思われるケースも出てきます。
 「事故車両の時価額」については今一つ説明が必要です。従来は、上記のように単純に時価額が考えられていましたが、最近では、単に車両時価額だけでなく車検費用や新車を購入する際に必要となる諸費用(登録番号変更費用、検査登録費用、車庫証明費用、納車費用)などを含めた金額だとする判例も増えています。こうすれば、単なる車両時価額を少しばかり超えた修理代のケースでは、そのまま修理代が賠償される場合も出てきます。
   
評価損
   修理をしてもらっても事故車として登録され評価損が発生したので、これも損害として認めてほしい。このように、事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額を評価損と言います。@技術上の評価損とA取引上の評価損がありますが、@は修理をしても事故車の機能や外観に回復できない欠陥が残る場合をいい、これは認められます。
 Aについては、一応の目安として、外国車または国内人気車種の場合、初度登録から5年(走行距離6万キロ程度)以上、その他の車種で初度登録から3年(走行距離で3万キロ程度)以上を経過すると認められにくいと言われています。評価損の金額ですが、修理代金を基準にして、10〜30%に相当する金額が一般的のようです。
   
代車代
   事故車を修理に出す場合、その間、代車を利用しなければならない場合があります。現実に代車を使用し、代車使用料が現実に発生している場合に認められます。
 問題は、その額と期間です。代車は原則として事故車と同程度の車種が認められます。したがって、一般には3,000円から5,000円程度でしょうが、高級外国車については国産高級車の限度で代車代が認められ、ベンツ、ポルシェなどは1日2万円の代車代が認められたケースもあります。
 期間については、一般には修理に必要な相当期間、買い替えに必要な相当期間です。保険会社等との交渉期間にある程度日数がかかり修理に出す時期が遅れた場合でも、その交渉内容、経過に合理的な理由がある場合は、交渉期間についても代車の認められる期間に含まれることがあります。したがって、この代車代は日々、損害が拡大してゆくことに注意しましょう。ですから、加害者側は示談を速やかに行うことが望ましいことは言うまでもありません。
 なお、保険会社のほうは、実際の代車使用期間に関係なく、一定期間で代車補償を打ち切る交渉を求めてきますので、被害者側ではその対策も必要です。
   
休車損害
    営業用の車が被害に会い、使用が不能になって営業ができなくなった、あるいは外注に出さざるを得なくなったとして営業上の損害が生じたケースでは、賠償はどうなるでしょう。
 この場合も損害は認められます。原則として、事故前の売上平均から経費を差し引いたものを損害とします。しかし、被害者が代替え車両を使用することにより営業を行えたときは、代替え車両によって発生した損害の賠償が主になります。
   
身体に身につけている物の損壊
   交通事故の被害に会い、眼鏡が壊れて、衣服が破れた、時計が壊れたということは多くあります。この賠償はどうなるでしょう。
 指輪やネックレス、イヤリングなどの宝飾品が物損ですから、その時の時価が賠償額となります。これに対し、眼鏡、衣服、履物などは人損として扱われ、自賠法3条の適用があります。この適用がある物には、他にも義肢、義足、義眼、コルセット、松葉杖、補聴器などがあります。腕時計については、人損とするものと物損とするものに判例が分かれています。

以 上
  平成28年3月  森田 太三
マイナンバーの申告を拒否するとどうなるの?
 いよいよマイナンバー制度がスタートしました。
 勤務先などでマイナンバーの申告を求められ、申告済みという方も多いかと思います。
 一方、マイナンバー制度に不安を感じ、申告をためらっているという方もいらっしゃるかと思います。そもそも、マイナンバーの通知カードの受け取りを拒否しているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 確かに、行政機関や民間企業から個人情報が流出したというニュースは頻繁にありますから、不安を感じるのももっともだと思います。
 では、マイナンバーを申告しないとどうなるのでしょうか。
 絶対、申告しなければならないものなのでしょうか。

 法律上、勤務先などは、税務関係書類に個人番号を記載しなければならず、そのため、従業員に対して個人番号の提供を求めることができることになっています。
しかし、義務違反に対する罰則はありません。
 国税庁のホームページには、従業員等から個人番号の提供を受けられない場合には、「提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。」「個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。」と書かれています。勤務先などが提出する税務関係書類に個人番号が記載されていなくても、税務署は、市区町村から個人番号の提供を受けられるので、税務処理は可能なのです。
 つまり、勤務先が従業員等の個人番号を税務関係書類に記載する法律上の義務を負っているといっても、従業員がマイナンバーの申告を拒否した場合には、その経過を記録、保存しておけばよいものとされ、それ以上に勤務先が迷惑をこうむるわけではありません。
 それでも、現実には、税務関係書類に個人番号を記載することが法律上の義務であることを強調し、使用者が従業員に対して個人番号の提供を強制することも多いようです。拒否すれば、懲戒処分など不利益処分を課されるリスクは否定できません。
 しかし、上記のとおり、そもそも制度上、従業員が勤務先に個人番号を提供しないことも想定されており、勤務先はその経過を記録、保存しておけばよいこととされている以上、個人番号の申告を拒否したことのみを理由に、懲戒処分など不利益処分を課すことは許されないというべきでしょう。もし、個人番号の申告を拒否した結果、不利益処分を課された場合には、弁護士にご相談ください。

 なお、自分で確定申告する場合には、申告書類に個人番号を記載することが法律上義務づけられており、記載しなければ、法律上の義務違反ということになってしまいます。
 しかし、上記のとおり、義務違反に対する罰則はありませんし、個人番号の記載がないからといって確定申告書類を受理してもらえないということはありません。
 
  平成28年1月記 弁護士 酒井桃子
マイナンバー制度って何?
 最近、「マイナンバー」という言葉を耳にすることが多くなりましたが、どんな制度かご存知ですか?
日本に住民票のある全ての人に番号が付けられ、平成27年10月以降、通知されることになっていますが、まだ通知カードを受け取っていないし、いまいちぴんとこないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、マイナンバー制度がどういうものなのか、注意すべき事項などについてご説明します。  

 マイナンバーとは
 日本に住民票のある全ての人に通知される12ケタの番号で、正式には「個人番号」と呼ばれる番号です。外国人でも日本に住民票があれば、通知されます。この番号は引っ越しをしても変わりません。
  実際にマイナンバー制度が始まるのは平成28年1月〜です。
   
 どういう場面で使われるのか
 具体的には、税金、医療保険、雇用保険、年金などの手続において、マイナンバーの記入を求められる場面が出てきます。
 これまで個人情報は様々な分野でバラバラに管理されていたため、それぞれの個人情報が同じ人物のものであるかどうかの確認が困難でしたが、マイナンバーと組み合わせることで、同一人の個人情報であることがわかるようになり、不正受給や脱税などを防ぐことができるようになるというわけです。
 一方、行政サービスを受けるための手続が簡単になるので、市民にとってもメリットは大きいと説明されています。特に、マイナンバーが記載された「個人番号カード」を作成すると、マイナンバーを申告するときの本人確認がこのカード一枚で済むので便利であるとか、図書館利用証や印鑑登録カードとしても使えるようになるとか、電子証明書機能もあるとか、とっても便利だと宣伝されています。
 平成29年1月からは、自分の個人情報がどのように利用されているのかを自宅のパソコンなどで確認できるマイナポータルという制度が始まるのですが、個人番号カード又は住基カードがないと利用できません。
   
 個人番号カードって作った方がいいの!?
 「個人番号カード」は、最初にマイナンバーが通知されたときに届く「通知カード」とは別物です。通知カードは紙のカードで、マイナンバー(個人番号)、住所、氏名、生年月日、性別等が記載されているだけですが、「個人番号カード」はプラスチック製のカードで、表面に顔写真、住所、氏名、生年月日、性別、住所の履歴、裏面に個人番号が記載され、ICチップも付いています。
 通知カードが届くときには、「個人番号カード」の申請書類も同封されていますが、「個人番号カード」を作成するかどうかは自由です。
 「個人番号カード」は無料で作ることができ、マイナンバー(個人番号)の申告や本人確認が必要なあらゆる場面で、このカードが1枚あれば足りるという点では確かに便利ですし(このカードがない場合、個人番号の申告をする際、通知カード+本人確認書類(免許証など)が必要)、電子証明書が搭載されていることから、オンライン申請等も簡単にできるようになります。将来的には更に多くの機能(特典)が「個人番号カード」に付与されることになるようです。
 でも、便利な分、リスクもあります。
 マイナンバー(個人番号)は、高度な個人情報として、理由なく収集することは禁止されていて、適法に収集した場合の管理体制についても厳格に規制されています。しかし、個人番号カードには裏面にマイナンバー(個人番号)が記載されており、本人確認書類として提示した際に、裏面を見られたら、簡単にマイナンバーを知られてしまうのです。
 マイナンバー(個人番号)の申告が必要な場合はともかく、単なる本人確認の場合に個人番号カードを提示する場合に、カードそのものを手渡してしまうのは危険です。裏面をコピーされてしまうことのないように注意が必要です。
 また、個人番号カードがあれば、個人情報へのアクセスが極めて容易になりますから、万一、落としたり盗まれたりした場合には、悪用される危険大です。
 便利なカードなので、作成しておこうかなと考えている方もいらっしゃることと思いますが、「個人番号カード」の使い方と管理方法には、くれぐれもお気を付けください。
   以上
  平成27年10月 弁護士 酒井桃子
慰謝料請求権は相続できるか
 1985年8月12日、ジャンボジェット機が群馬県の山中に墜落するという航空機事故史上最悪の事故が起きました。今年は事故後30年であり、報道もされました。この事故は、乗客乗員524名中520名の方が亡くなるという大惨事となりました。機体後部の圧力隔壁が損傷し、その結果、油圧系統や垂直尾翼が破壊されて、操縦不能となったのが原因とされています。異常発生からパイロットたちは、懸命に飛行機を着陸させようと奮闘しましたが、残念ながら、コントロールが回復することはありませんでした。その間32分もの間、飛行機は大きく揺れながら飛び続けることになりましたが、その間の恐怖感は察するに余りあります。墜落直前の揺れる機内で遺書をしたためた乗客の方もいました。さぞ、無念だったことと思います。
   
 この事故で圧力隔壁が損傷したのは、その7年前に起きた「しりもち事故」の際の修理が不完全であり、その後、日本の航空会社がこれを見逃し不完全なまま飛び続けた結果、金属疲労により亀裂が生じたことにあるとされ、事故機を製造したアメリカのメーカーも修理ミスを認めました。そこで、事故機を運航した日本の航空会社とアメリカのメーカーが共同して、遺族に対する補償を行うことになりました。
   
 遺族は、亡くなった乗客の航空会社やメーカーに対する財産的損害賠償請求権を相続するのは現在では明らかです。例えば、本来被害者が生きていれば得られるはずであった逸失利益は、財産的損害として請求することができます。
 では、亡くなった方の精神的損害の賠償を求める権利、すなわち慰謝料の請求権も相続するのでしょうか。
 現在では、当然に、遺族は、故人の慰謝料請求権を相続すると認められています。
 しかし、実は、古くは、死者の慰謝料請求権の相続が認められる場合と認められない場合が分けられていました。
 精神的苦痛というのは、その人だけに生じるもので、権利を行使するかしないかを決められるのは被害者だけなので、遺族は相続しないというという考え方がありました。これを被害者の一身専属的権利ということがあります
 もっとも、このように考えても、遺族固有の慰謝料(つまり近親者を失ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料)は別途、民法711条により認められていますので、遺族が全く慰謝料の請求ができなくなるわけではありません。
 このように一身専属的権利と考えても、被害者が死亡する前に「痛い。痛い。」とか「残念だ。」とか口に出していた場合には、その時点で既に加害者に対し損害賠償請求権を行使する意思を表明したといえるから、このような場合には遺族はこれを相続するという古い判例がありました。しかし、これでは、このような意思を表明する間もないような即死の場合には、相続しないことになりますが、即死の方が被害の程度も大きいはずなのに不合理でしょう。飛行機が墜落する前に、例えば「残念だ。」とか「航空会社を許せない。」などと機内で遺書を書いた被害者の遺族だけが相続して、遺書を書いていない被害者の遺族が相続しないという結論になるとすれば、明らかにおかしいと思うでしょう。
 最高裁の昭和42年11月1日大法廷判決は、このような意思の表明があったかなかったかにかかわらず、当然に、死者の慰謝料請求権は、遺族が相続するものと判断しています。
 今となっては、当然の結論と思いますが、かつては、違う考え方もあったのです。
   
 ちなみに、アメリカでは懲罰的賠償という考え方があります。これは、裁判所が、実損害に上乗せして、懲罰的に賠償金額を加算して支払うよう命じるというものです。
 日本では、どんなに加害者が悪質であっても、被害者は、自ら被った損害の範囲でしか賠償を求めることができません。
 この事故では、日本の航空会社が遺族の窓口になって示談交渉にあたったということですが、もしかするとアメリカでメーカーの責任を追及する訴訟を提起した遺族の方もいるかもしれません。
 このような悲惨な事故が決して繰り返されないことを切に願います。
  平成27年8月 弁護士 須見健矢
黙秘権は最大の武器
  新聞記事等で「取調に被疑者は黙秘している。」と書かれているのを目にしたことがおありかと思います。被疑者や被告人に「黙秘権がある」ということは一般に知られていますが、黙秘権とはいったいどんな権利なのでしょうか。
 憲法38条1項では、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と定められており、これを受けて、刑事訴訟法311条1項では、「被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。」とされています。これが「黙秘権」あるいは「供述拒否権」と呼ばれる権利で、刑事裁判の被告人は、裁判の冒頭、公判の審理が始まる前に、裁判長から黙秘権があることの説明を受けます。
 一方、起訴される前の被疑者には、198条2項で、「(捜査機関は、)取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない」とされており、この規定をもって、被疑者にも黙秘権があるものと解されています。

   
 このように、黙秘権が認められるのは、人の意に反して供述を求めること自体が個人の尊厳を冒すものであると考えられるからです。人間の心理として、自己に不利益なことは言いたくないというのが人情です。それを強制することが人権の侵害になるという考え方です。憲法38条2項は、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」とされており、これらの方法による取調べが個人の尊厳を冒すことになり、許されないのは、当然のことですが、拷問や脅迫のような極端な手段を用いなくても、黙秘することを法律上不利益に扱うことは許されないと考えられています。黙秘権を行使したことを有罪認定の証拠に使うことは許されません。
   
 更には、黙秘権には、誤判の防止という観点からも、必要な権利といえます。
 いきおい捜査機関は、「人間は自らやってもいないことを認めるわけがない。」という思い込みから、無理にでも被疑者から自白を得ようとしがちです。
 被疑者の自白は有罪の有力な証拠となりうるからです。しかし、そこでは、黙秘権の行使は、最大の対抗手段となります。もし、黙秘権がなければ、捜査官の厳しい追及に根負けし、やってもいない罪を認めるということが起こります。
 その結果えん罪を生み、真犯人が処罰されないという結果が生じます。これは、社会全体にとっても不利益なことです。
 そこで、黙秘権を侵害した得られた自白は、証拠能力が否定される(有罪の証拠として用いることができない)とされているのです。
   
 もし無実の罪で逮捕されたとき、最大の武器は、黙秘権を行使することと思ってください。
 黙秘することに何ら理由はいりません。身柄を拘束された場合、取調のために取調室まで出頭する義務はあると解されていますが、捜査官には、ただ「黙秘します。」とだけ言えばよいのです。
 ただ、一切を黙秘するかどうかは、具体的な状況を踏まえて慎重に判断する必要があります。また、身柄を拘束された人が様々な重圧の中で黙秘することは精神的にかなりの負担となります。すぐに弁護士を呼び、助言を受けることが何より重要です。 

  平成27年7月 弁護士 須見健矢
不招請勧誘再び
1、  不招請勧誘禁止を知っていますか
   言葉はなじみがないでしょうが、要するに「呼んでもないのに、自宅に来て商品先物取引を勧めるな」ということです。商品先物取引に引き込まれて莫大な損害を出す被害が広汎にありました。その防止のために、「家にくるな」という規制を行ったわけです。商品先物取引法214条9項に定められています。商品先物の対象となる商品は、いろいろあります。金・大豆など多いのですが「米相場」と呼ばれるものもそうです。皆さん言葉くらいは聞いたことがあるでしょう。小さい金額で(将来の予測をして)大量の取引を行い将来のある時点で大量取引の精算をする、という非常にリスクの大きい取引です。この説明は定義としては不十分なのですが、少額で大きな取引をする・将来予測・リスクということを強調したいのです。
   
2、 効果があった
   家に来ることを禁止したおかげで、「被害を受けたという相談」は非常に減りました。劇的であったと言ってよいのです。私も「よかったなー」と思っていました。なにしろ相談者は、高齢者やおよそリスクなど考えたこともないような人、つまり「素人さん」が多かったのです。
 逆に言うと、「家に来るな」という規制はとても効果があったわけです。ここまで書くと「じゃあ、原則は、家に勝手に押しかけてきてもいいのだ」という誤解がでるかもしれません。勿論違います。元々、「住居侵入罪」もあるくらいですから、「帰れ」と言って追い返せるのです。しかし、実際にはそれができる人は少ないのです。訪問されて、巧みな話術(というよりマニュアルに従った勧誘ですね)でもってまくしたてられると、早く帰って貰いたいためもあって、ついすこしだけでもと考えてしまう人が多いのです。一旦取引に入ってしまうと、悪循環で長く続いてしまい、莫大な損失が出ていた、ということが多かったのです。
   
3、 業界の働きかけと経産省・農水省の動き、実質解禁
   ところが、先物を扱う業者から見ると、当然大きな打撃になるわけです。そのため、監督官庁に働きかけてきました。というと、何故「働きかけ」が必要なの?と思うでしょう。それは、先物市場が、「素人さん」を巻き込んで、そのお金を導入しないとうまく回らないようになっているからです。それしか考えられません。専門家の玄人だけで取引をやればよさそうなものですし、それで市場も回していけばよさそうなものですが、どうもそれでは駄目なようです、ここがもっとも基本的な部分です。おかしいと私は考えます。
 つまり業者にとっては取引手数料が重要な収入のようであり、取引量を大きくしないといけないわけです。素人さんを勧誘してきたのは、それが大きな原因でしょう。業者や商品先物に関与する人は、自分達だけで相場を張ってそこで勝負して儲ければよいじゃないか、それだけで生きていけば良いではないか、と私などは思うのです。しかし、業者は自分たちも(自己玉といいます)取引をやってはいますが、会社を支えるのは(素人さんを巻き込んだ)手数料収入が大きいのです。やはり玄人だけに、相場の怖さを知っているのでしょうか・・・。
 結局、経産省・農水省は、今年の1月23日、何故か業者に同調し、商品先物取引法施行規則の改正を行い、本年6月1日に施行するそうです。改正は、不招請勧誘について、例外を広汎に認める形となっています。しかし、一旦認めてしまうと、例外にあたるかどうかは、結局後から裁判所などで問題になる形になります。そうすると、また多くの被害相談が生じてきて、過去の繰り返しになるのではないかと、大変憂慮しています。
 なお、施行規則の改正といいますが、実は上記の商品先物取引法214条9項自体はそのまま残っていて、そこでは施行規則のような広汎な例外など定めていません。ですから「下位の法令で上位の法令を改廃した」という大問題があるはずです。なぜかそこを経産省・農水省などはスルーしていますが・・・。私はこちらのほうが、もっと重要な問題ではないかと考えます。
   
4、 損害を被らないために
   商品先物は、結局はリスクが大きく、しかも仕組みも見かけ以上に複雑です。絶対に素人がやるべきものではありません。とにかく、電話がかかってきたらすぐに切ってしまうこと。訪問してきたら、話を聞くことなく、断固として帰ってもらうことが一番です。
  平成27年5月 弁護士 小林政秀
相続人が一人もいないとき、残された財産はどうなる!?
 最近は少子化なので、相続人が一人もいないケースに遭遇することも珍しくありません。
  一人っ子で結婚歴がなく(子どもがいない)、両親は既に他界している場合、子どもがいない夫婦の一方が既に他界しており、両親も他界している場合など。なお、相続人がいても全員が放棄してしまうと、法律上は相続人が一人もいないのと同じ扱いになります。

 そこで、今回は、相続人が一人もいない場合、残された財産はどうなるのか、解説してみたいと思います。
 
  相続財産法人の成立と相続財産管理人の選任
 相続人が一人もいない場合、何も手続をしなければ、残された財産(相続財産)を管理する人がいなくなってしまいます。たとえば、葬儀など死後事務にお金がかかっても、預金を払い戻すことができません。自宅不動産を処分したり、取り壊したりすることもできません。
 そこで、民法は、相続人が一人もいない場合、残された財産(相続財産)自体に法人格を与え(相続財産法人が成立)、利害関係人等の請求により、家庭裁判所が相続財産法人の代理人として実際に相続財産を管理する「相続財産の管理人」を選任することにしています。
 「相続財産の管理人」が選任されたことは官報に掲載されます。
     
  相続債権者及び受遺者への弁済
 最初の官報掲載後、2カ月経過しても相続人が明らかにならない場合、相続財産管理人は、相続債権者(亡くなった本人の債権者だった人)や受遺者(遺言で相続財産の贈与を受けた人)に一定期間内(2カ月以上)に請求の申出をするようにと官報に掲載して公告します。
 そして、公告した期間を経過したら、相続財産から以下の順序で弁済を行います。
   
  @ 優先権のある相続債権者
  A 公告した期間内に請求の届出のあった相続債権者、届出がなくとも相続財産法人が認めている相続債権者(@を除く)
  B 公告した期間内に請求の届出のあった受遺者、届出がなくとも相続財産法人が認めている受遺者
  C 上記@〜B以外の相続債権者及び受遺者
     
     Aの段階で全額の弁済ができない場合は、債権額の割合に応じて配当することになります(BCの段階に進めないため、受遺者は届出の有無に関わらず、相続債権者は期間内に届出をしなかった場合、弁済を受けられません。)。
 場合によっては、破産申立てを行うこともあります。
     
  相続人捜索の公告
 上記弁済をしても相続財産が残る場合には、相続財産管理人は、相続人を捜索するための最後の公告を家庭裁判所に請求し、家庭裁判所は、「相続人があるならば、一定の期間内(6カ月以上)にその権利を主張すべき旨を裁判所の掲示板に掲載し、かつ官報に掲載して公告します。
 相続人が現れた場合には、相続財産法人は成立しなかったものとみなされ、相続財産管理人の代理権も消滅するので、相続財産管理人は、相続財産を相続人に引き継ぐことになります。
 一方、公告期間中に相続人が現れなかった場合、公告期間経過後に、実際には相続人が存在することが判明したとしても、その相続人は権利行使することはできませんし、相続財産管理人が認めていない相続債権者や受遺者(上記Cの相続債権者及び受遺者)も権利行使できなくなります。
 では、残った財産は、どうなるのでしょうか。
     
  特別縁故者に対する相続財産の分与
 相続債権者や受遺者への弁済をした後に残った財産は、基本的には、国庫に帰属することになります。
 しかし、「特別の縁故があった者」が存在する場合には、その者が財産を引き継ぐことができるように、特別縁故者に対する分与の制度が設けられています。
 もっとも、(3)の公告期間満了後3カ月以内に、特別縁故者が請求する必要があり、分与を認めるかどうかは、家庭裁判所が判断することになります。
 では、「特別の縁故があった者」とは、具体的にどういう関係にある人のことをいうのでしょうか。
 民法は、具体例として、生計を同一にしていた者、被相続人(亡くなった本人)の療養看護に努めた者を挙げていますが、懇意である近隣の人々であれば何人でもなしうる程度の行為では「療養看護に努めた者」とはいえないとされています。
 その他、「(生計を同一にしていた者、療養看護に努めた者)に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあったもの」も、特別縁故者に該当するものとされています。必ずしも親族関係にあることは必要ではありません。
     
  国庫帰属
 特別縁故者への分与手続によって処分されなかった財産は、国庫に帰属することになります。
 具体的には、不動産、船舶、株式等は財務局長へ、現預金、金銭債権、その他の動産は家庭裁判所に引き継がれます。
 なお、家庭裁判所は、相続財産の中から相当な報酬を相続財産管理人に与えることができることとなっていますので、最終的に国庫に帰属するのは、相続財産管理人の報酬を差し引いた残額になります。
     
  最後に
 このように、相続人が一人もいない場合で、遺言も残っていない場合には、せっかく財産を築いても最後は国庫に帰属してしまいます。
 特別縁故者の制度はありますが、家庭裁判所の判断如何ですので、必ずしも亡くなった方の意思に沿った結果になるとは限りません。
 そう考えると、相続人のいない人は、やはり遺言に自分の気持ちをしっかり書き遺しておくことが重要だと思います。
平成26年9月記  弁護士 酒井 桃子
判例紹介(マタニティーハラスメント)
 先日、マタニティーハラスメントに関する最高裁判例(最高裁平成24年(受)第2231号同26年10月23日第一小法廷判決)が話題になりました。
 マタニティーハラスメントとは、妊娠・出産を理由にした女性従業員への不当な対応や言動をいいます。
 労働基準法65条3項は、女性労働者の母体保護のため、「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。」と定めています。
 また、男女雇用機会均等法9条3項は、妊娠や出産、労働基準法65条3項の軽易業務への転換等を理由に、当該女性労働者に対し解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定め、女性労働者の母性の尊重と職業生活の充実の確保を図っています。
 本件は、最高裁がマタニティーハラスメントに関し初めて判断したことで注目を集めました。

 事案は、副主任の職位にあった理学療法士の上告人が、労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任の職位に任ぜられなかったため、妊娠中に副主任から外された措置(以下「本件措置」といいます)は、男女雇用機会均等法9条3項に違反する無効なものであるとして、管理職手当の支払と損害賠償を求めたものです。

 最高裁は、一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であり、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として、男女雇用機会均等法9条3項の禁止する取り扱いに当たる、と明示しました。
 そのうえで、最高裁は、例外的に、
(1) 当該労働者が、自由な意思に基づいて降格を承諾したと認められる合理的な理由が客観的に存在するとき(軽易業務への転換及び降格措置により受ける有利な影響、降格措置により受ける不利な影響の内容や程度、降格措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして判断)
(2) 当該労働者を降格させずに軽易業務へ転換させることが業務上支障のある場合であって、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき
には、同項の禁止する取扱いに当たらないと述べました。
 そして、本件について、
@ 軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度は明らかではないこと
A 上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は、管理職の地位と手当等の喪失という重大なものであること(上告人は勤続10年を経て副主任に就任しています。手当は月額9500円ですが、それ以上に労働者としての誇りが傷つけられたのではないでしょうか。)
B 本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものであり、上告人の意向に反するものであったこと(本件措置の際、勤務先は、育児休業後も上告人を副主任へ復帰させる予定がなかったにもかかわらず、上告人に対して十分な内容の説明をしなかったという事情がありました。)
などの事情を指摘し、上記(1)の要件を満たさないと判断しました。
 そして、さらに、上記(2)の特段の事情の有無につき審理を尽くさせるため、原審の広島高等裁判所に差し戻しました。

 マタニティーハラスメントの背景には、長時間労働の実態と、男女の役割分担という既存観念の存在が指摘されています。
 性別を問わず、誰であっても、その生き方には、様々な選択肢があって然るべきです。仕事か家庭かの二者択一を、第三者から強要されることがあってはならないと思います。
 本判決を機に、男女ともに働きやすい社会の実現が進むことを願ってやみません。

平成26年10月  弁護士 油木 香
劇場型詐欺と出資法
 皆さんは出資法という名前を知っていますか?これはとても長い名前の法律の略称です。今はやっている劇場型詐欺は、実はこの法律と密接に関連しているのです。え・・・劇場型詐欺とはなんだ?そんなの知らないということですか?

ケース1
 「とてもいい株があります(社債・儲け話などアイテムはなんでもいいのです)が買いませんか、あなたが特に選ばれました。」という話しがきて、断わります。そうすると「・・・社ですが、あなたのところに・・・株の話がきていませんか、是非転売してください。私どもが2倍(5倍、10倍ということも勿論あります)の値段で買い取ります。あなたが選ばれてしまったので私どもは直接購入できないんです」という別会社からの電話が何社もかかってきます。半信半疑だった人も何度も繰り返しているうちに、その気になって金を払うと結構麗々しい書類が届きます。おもむろに「転売してあげる」と連絡しても、もう電話が通じません。後で調べるとすべて偽名だったり、実態のない会社だったりします。

ケース2
 「おばあちゃん、携帯を無くして番号替えたからね」と電話があります。その後に、「変更された」番号で電話があります。「もしもし、会社の上司の・・・ですが、お孫さんがとても困ったことをしてくれました。今側にいますので替わります」「おばあちゃん、すぐに300万払わないとクビになって、逮捕されてしまうんだ。相手の人に替わるから」
「ちょっと、えらいことしてくれたね」云々。「直ぐに、・・・と言う人が受け取りにいくから・・・」

ケース3
 「実はね、スイスのプライベートバンキングがあって、すごい利率で運用しているんだ。宣伝なんかしていない。選ばれた人だけに、個別に話しが来るんだよ」「ほら、これが英文の契約書で、これが資産を預かる銀行の預かり証のコピー。当然、名前は墨塗りしているけどね」
「俺もやっているんだ、紹介してもいいよ」直ぐに、スイスからメールや電話が入ります。言葉も英語・ドイツ語です。「日本における我々の業務は・・・・が行っています。」「そこに行って下さい。申し込み最小単位は10万ドルです。米ドルです。」などと言われ、確認しに行くと確かにとても立派な部屋に通されます。しかも実際に存在する会社です。ところが、後で聞くと、「資産の預かりを行なっているだけ。もうあなたのサインで引き出されましたよ」と言われます。

 これらすべてを「劇場型詐欺」とまとめて呼ぶことが多くなっています。架空の物語を「演じることによって騙す」ことでは共通しているからです。
実に多彩なヴァリエーションがあります。名刺や電話やパンフレットや立派な応接室などは信用してはいけません。運転免許証・パスポート(それでも偽造はあり得ますが・・・)などの身分証明書ぐらいは是非確認すべきです。「無礼?」いやいや、多額の金銭が動く話に、身分・実名などを正式に教えないほうが、よほど無礼です。残念ですが、人を頭から信用することは美徳ではありません。
 「出資法」はどこに行ったの?と言う疑問はこれからです。この法律は、「業として(不特定・多数の意味です)預り金をしてはならない」としていて、「3年以下の懲役・または300万円以下の罰金もしくは併科」という刑罰まであります。例外が「法律によって認められた場合」です。つまり、「銀行」は「例外」として認められているわけです。銀行は特に保護されているのです。
 ですから、本来は上記のようなケースでは、「金を集めたという事実だけで」逮捕されてもおかしくないし、それが本筋なのです。被害者が複数いれば、簡単?に逮捕できるはずです。
 そこで、詐欺師達は考えます。「名目をつければいいのだ。」「株の購入なら、出資だ・・・ケース1」「貸し金なら民事だ・・・ケース2」「預金なら問題ない・・・ケース3」こうして、少なくとも出資法違反によって、直ぐに逮捕されるのをまず避けるために、かっては「貸付け」「株売買」など形式を整え、金集めをして、「時間を掛けて後で消える方法」が考えられたわけで、そのあたりが源流といってもまあよいでしょう。大規模な被害を出したケースが多いのです。現在もそれらしいものはあります。ただ、そうすると時間はかかりますが、最終的に逮捕・損害賠償に移行することもあるわけです。そこで、手がかりを残さないように、また手間暇をかけないように改良?され、パソコンなどのツールが発達したこともあり、現在の形になっています。勿論詐欺であることははっきりしていますので、逮捕されるリスクはありますが、それを「出し子」と呼ぶ、金を受け取る下っ端に限定しています。どうも、その出し子は、実際に主要メンバーについては殆ど知らされていないようです。くれぐれも、安易に現金を渡してはいけません。実際に逮捕されかねないケースでも、「時間はあります」ので、充分確認してでも遅くはありません。ご注意を!!
 なお、ケース1から3のようなものではなく「お金を運用してあげる」といって金集めをしていたら、出資法違反であることにも皆さん充分注意して下さい。まだ、結構多いのですよ。
 「劇場型詐欺」については、相変わらず類似の被害が多いので、ため息をつきながら、またとりあげました。ちなみに「出資法」というのは「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締まりに関する法律」というのが「正式名称」です。また、ケースとしてあげた話の内容は、少し変えてはありますが、実際によくある被害です。
以上
弁護士 小林政秀
近所で火事が起きたら?
 平成26年正月に、有楽町駅近くの線路沿いから火事が出て、新幹線が遅れました。私も大変迷惑した一人です。
 ところで、近所で火事が起き、皆さんもなんらかの被害を受けたとしたらどうなるかご存じですか。「火事を起こした人に賠償してもらえる」まずはそう考えますよね。ところが、そう簡単にはいかないのです。
 明治32年に「失火ノ責任ニ関スル法律」というのが出来ています、それがまだ有効です(少なくともそう考えられています)。そこでは、「重過失の場合だけ責任を負う」となっています。「重過失とはなんだ」ということになりますが、通常なら過失とされる「軽過失を除く」という話なのです。よく分かりませんね。それも当然でして、結局、個々に判断するしかないのです。例えば、煙草を消さなかったとすると、「多分」重過失と私は思いますが、必ずそうなるかと言われると断言はできません。
 よく分からないということは、結局、話し合いが無理なら、訴訟をやってみないと決着がつかないということになるのです。あと、火事を出した人にお金がなければ、勝訴しても「取れません」ご注意ください。こう書くと「そんなばかな」と思われる人も多いでしょう。でも、上記の法律は木造建築が多く、火事が多い国であったという事情を反映しているわけです。現代では、もう廃止すべき法律かもしれません。
 それでは、「やはり火災保険を掛けておこう」ということにはなりますね。損害保険というジャンルですが、これも意外にも結構な縛りがあります。「万が一に備えて、多額の保険を掛けておいたぞ」と思って請求しても、なんだかんだと保険会社から面倒なことを言われるはずです。それ自体は、まあやむをえないでしょう。実は、いろんな決まりがあります、例えば「焼け太りを許さない」という原則があるのはご存じですか。最近では、意外に知られていないのではないでしょうか。
 言葉でいうと「被保険利益がないものはだめ」「利得禁止の原則」というものがあります。やはりなんのことか分かりませんですね。前者は例えば、親の遺品であって、自分だけに価値のあるものとか、密輸品とかのことです。後者は、例えば、500万くらいしか価値のない古い家屋に、1億円の保険を掛けても、500万しか払わないよ、ということです。こう言われると、なんとなく理解できますね。つまり、時価が原則なのです。もっとも、「特約」があれば、それによって、再調達価格が補償されます。ですから、保険に入る時には、「特約」について話合い、内容を充分確認すべきです。このように、火災保険も、実際には意外に難しいのです、例えば中古の機械類ではどうでしょう。なかなかはっきりしません。やはりケースバイケースです。せめて、保険に入るときに、細かく・具体的に対象をはっきりさせておくべきです。「・・・・一式」となると危ういですよ。
 さらに、保険法13条には「損害の発生・拡大の防止義務」なんていうのもあるのです。まあこれは、「消火には協力しろよ」という意味位で理解しておいてください。しかも、「告知義務違反」なんてのもあるんです。「聞かれたのに、ちゃんと答えなかったので支払わないぞ」という訳です。あと、「延焼を防ぐために、家を一部壊したらどうか」という問題もあります。これは、「消防の活動のために必要な処置」と認められれば、抽象的には保険金が出るはずですが、やはり、保険契約時にちゃんと確認しておかなくてはいけません。
 という訳で、火事の後始末は、意外にも難しい問題なのです。法律相談くらいは必要だと考えておいてください。
 2014年6月

   弁護士 小林政秀
不当な解雇
  会社から不当に解雇を告げられた場合、どのように対処すべきでしょうか。ここでは、雇用期間の定めのない正社員の場合について説明します。

1 解雇の制限
  解雇とは、使用者側から労働契約を解約することです。労働基準法や労働契約法等では、労働者が不当に解雇されないため、種々の制約を定めています。
  (1) 産前産後・業務災害の場合、休業後30日間は解雇禁止。
  (2) 30日前の解雇予告または解雇予告手当の支給が必要。
  (3) 女性労働者などの差別的取り扱いの禁止。
  (4) 組合活動を理由とする解雇の禁止。
  (5) 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合の解雇の禁止(解雇権の濫用)。

2 解雇に合理的理由があるか
  では、どのような場合に解雇に合理的理由があるとされるのでしょうか。解雇に理由がなければ、解雇は無効となり、労働者の地位が存続していることになります。また、解雇が不法行為にあたり、慰謝料が発生する場合があります。
  (1) 労務提供の不能、労働能力又は適格性の欠如、喪失。
  (2) 労働者の規律(就業規則)違反。
  (3) 経営上の必要性がある場合。人員削減等。
いわゆる整理解雇については、@人員削減の必要性(経営上やむをえないか)、A手段としての整理解雇の必要性(他に配転、出向、希望退職を募るなどの方法がないか)、B被解雇者の選定の妥当性(客観的合理的基準により公正に人選がなされているか)、C手続の妥当性(協議を尽くしたり、十分な説明をしたりしているか)の4つの要件が必要とされています。

3 不当な解雇と思ったら
  (1) まず、どのような理由で解雇されるのか使用者側に明確にしてもらう必要があります。
労働基準法では、解雇の理由の証明書を使用者に請求できるものとされていますので、書面での回答を要求します。
  (2) 就業規則、雇用契約書の確認
就業規則上、自分が懲戒事由や解雇事由に該当するかどうか確認、検討します。
  (3) 解雇無効であるとの通知
その上で、不当な解雇と判断できれば、内容証明郵便により、解雇の無効であることを通知し、賃金の支払いを求めます。
  (4) 使用者との交渉
使用者と解雇の有効無効について争いがあれば、法的手段をとるか検討することになりますが、退職をする代わりに、退職金に相当する金銭の支払を受けるなどにより、示談する場合もあります。
  (5) 法的手段の検討
@ 民事調停、A労働審判、B労働者の地位を仮に定める仮処分、賃金の支払いを求める仮処分、C訴訟という手段がありますが、手続きの迅速性の点など、第1選択としては、A労働審判が利用しやすく、スタンダードになっています。

4 最後に 
 以上簡単に説明しましたが、実際の解雇が不当解雇に当たるかは、裁判例も積み重ねられており、微妙な判断が求められます。
 不当に解雇された会社に進んで戻りたいと思う人は多くありません。ただ、金銭で解決する途もありますので、泣き寝入りせず、弁護士にご相談ください。
2013年12月記

弁護士 須見健矢
弁護士保険のはなし
 最近、弁護士保険に加入している方が増えています。弁護士保険とは、弁護士に相談したり、依頼したりする必要のある事故が生じたときに、その費用を保険によってまかなうことができる制度です。「弁護士費用特約」などの名前で、損害保険契約の特約としてセットになっています。日弁連では、「権利保護保険」という呼称を特許庁で商標登録しており、損保各社と協定を結び、保険契約者が弁護士を必要としているときに、適当な弁護士を紹介できるよう、リーガルアクセスセンター(略称:LAC)を立ち上げ、紹介業務を行っています。
 この保険に入っていない場合、弁護士に依頼して損害賠償請求を行い、その結果加害者から賠償金の支払いを受けたとしても、そこから一定割合の弁護士報酬が差し引かれます。しかし、弁護士費用を保険金によって支払うことができれば、事故による損害賠償の全額を取得することができます。特に、交通事故の物損など、法的には様々な問題があっても、比較的少額の賠償が問題となる事案では、これまで、弁護士に依頼すると費用倒れになってしまい、依頼する経済的メリットが乏しいという場合もありましたが、弁護士費用を気にすることなく、弁護士に相談や依頼をすることができます。弁護士保険の普及は、一般の方が弁護士にアクセスすることを容易にするものであり、被害者の権利救済という意味でも大いに歓迎すべきものです。
 弁護士保険の対象となるのは、交通事故や火災、欠陥商品による事故等の被害者となったときに加害者に損害の賠償を請求する場合であり、一般に、加害者として損害賠償を請求される場合には利用できません。また、今のところ、上記の事故以外に弁護士が必要な場合、例えば、不動産を巡る法律問題であるとか、労働事件とか、契約上の債務不履行による問題など、広く一般的な民事事件の弁護士費用をまかなう保険がありません。現在は、自動車保険や火災保険等の特約として契約されているためですが、将来的には、弁護士保険が単独の保険として商品化され、弁護士が必要なあらゆる場合に保険によってカバーされることが期待されます。
 最後に。この弁護士保険、加入していたことを忘れてしまって、弁護士に頼まないで、自分で加害者との示談交渉を進め、示談に応じている方が結構いらっしゃるそうです。とてももったいない話ですので、普段からご自身の加入している損害保険の契約内容を確認しておかれるとよいと思います。
2013年12月記
弁護士 須見健矢
生活保護の豆知識 その2
@
離婚の成否は関係ない
  離婚が成立するまでは、別居していても夫に収入があるから生活保護を受けられないのではないか、と相談されることがあります。もしかして、そのように誤解して生活保護申請を諦めている方が結構いらっしゃるのかもしれません。
 確かに離婚が成立していないともらえない手当等はありますが(ひとり親支援の制度など)、生活保護制度に離婚の成否は関係ありません。
 最低生活費の基準を下回る収入しかなく(十分な援助ができる扶養義務者もいない)、換価できる資産もないという場合には、離婚の成立に関わらず、生活保護を受給することができます。
 不動産はあるけれど、すぐには換価できない、手元のお金も残りわずか、このままでは生活できないというケースでは、資産はあっても保護が必要な緊急事態ですから、やはり生活保護が認められます。もっとも、この場合、資産はあるので、資産を換価できたら保護費を返還しなければなりません。資産を換価できるまでの間、保護費相当額を借りたのと同様に考えるわけです。 

A
働いていても生活保護を受けることはできる
  生活保護は、収入が最低生活費を下回っていて、換価できる資産もない場合に、足りない分を補ってもらう制度なので、働いていても収入が少なくて最低生活費を下回っている場合には生活保護を受けることができます。
 生活保護を受けたら働かなくていいとか、働いていたら生活保護を受けられないのではないかと誤解している方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。
 健康で働くことができる場合は、少しずつでも働くようにと就労指導されます。
 働いて収入が増えると、保護費は減らされますが、それだけ自立できるようになったということですし、働いて得た収入については、その全額を減らされるわけではないので、働いた方が手元に残るお金は増えます。
 
B 収入の申告について
  収入を申告すると保護費を減らされるため、申告しない方がたまにいらっしゃいますが、後でその事実が判明すれば、過去の未申告収入相当額の返還を求められます。悪質だと判断されると、保護費全額を返せと言われることもあります。
 収入はきちんと申告するに限ります。 
   
C 借金や身内からの援助金も収入とみなされる
   生活保護受給中は、保護費の範囲で何とかやりくりしなければなりません。
 やりくりできなくて、生活保護受給中に借金してしまうと、借金相当額の収入があったとみなされ、保護費を減額されたり、後日保護費を払い過ぎたとして返還を求められることになります。
 借金は返さなければならないのだから収入とは違うのではないか、と思われるかもしれませんが、そういう世間の常識は通じません。生活保護受給中に借金などしてはいけないということだと思います(そもそも、保護費は最低生活費なので、借金の返済をする余裕はありませんし、返済に充てるべきではありません。ですから、生活保護を受ける前に借金していた場合には、よほど少額でない限り、自己破産する必要があります。)。
 また、身内からの援助金も収入とみなされ、後日保護費を減らされたり、保護費を払い過ぎたと返還を求められたりします。ちょっと理不尽に思われるかもしれませんが、身内や知人が援助できるなら、その分保護は必要なかったはずだと考えるわけです。
 ですから、身内から援助してもらって懐が潤ったからと贅沢をしてしまうと、あとで痛い目にあいます。
   
D 医療費負担がなくなるメリットとデメリット
   生活保護受給中は医療費負担がなくなります。これは大きなメリットです。
 健康保険に加入している方は、生活保護を受けてもそのまま被保険者証を利用するのですが、3割の自己負担分を全額保護費から払ってもらうことができます。国民健康保険や後期高齢者医療の被保険者である方は、生活保護を受けると被保険者資格を失うので、被保険者証ではなく医療券で受診することになります。この場合、保護費から医療費の10割が全て保護費から支払われることになります。
 いずれの場合も、医療費を自己負担しなくてもよくなるという点でメリットといえますが、国民健康保険や後期高齢者医療だった方は、後日保護費を返還しなければならない事態になると、予想外の負担を強いられることになります。医療費10割を保護費で出しているため、国民健康保険や後期高齢者医療であれば、3割とか1割の負担だった方も、10割相当額の保護費を返還しなければならなくなるためです。たとえば、本人に意識がなく、資産があるかどうかわからない状態で緊急に保護開始となったが、実は資産があったことが後日判明したという場合、資産が判明した時点で保護が打ち切られ、本来は保護の必要がなかったのだからと支給された保護費相当額の返還を求められるのですが、このとき医療費については10割を保護費で支給したとして請求されるため、結果的に医療費10割を負担しなければならないことになるのです。
 これはいかにも不合理だし、不平等ではないかと訴訟になったものもありますが、残念ながら、現時点では適法な運用だとされています。 

平成25年10月記
弁護士 酒井桃子